ご存知のように、農地は食料供給には欠かせない大事なものです。一方で、限られた国土の有効利用のため、住宅地や工業用地にしたいという要請もあります。この両者を調整して計画的な土地利用をするために農地転用制度があります。
第一種農地は農業上の土地利用を確保していく度合いが高い農地なので、原則としては農地転用を許可しない農地という位置づけです。しかし、もちろん絶対に認めないということではありません。国民経済の発展や農業、農村の発展のためには認めたほうがいい場合もあります。
つまりそれは公共性の高い事業に使用される場合、農業関係施設に使われる場合、その場所でなくてはならない制限があるような使いみちの場合で、それに該当するときには第1種農地でも例外的に許可されることとなっています。
この記事では、第1種農地で例外的に許可されるケース・施設の中で、より身近なものについて見ていきます。
いつもの倍ぐらいの文量ですので、↓の目次を利用して気になるところから読んでいただければ効率的です。
1,農業用施設等
申請に掛かる農地を農業用施設、畜産物処理加工施設、農畜産物販売施設に供するものである場合
農作業用施設等には主に以下の様なものが該当します。
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- 農業用施設
- 農畜産物処理加工施設
- 農畜産物販売施設
また、農作業のために必要不可欠な駐車場、トイレなどについては農業用施設に該当するとともに、農業用施設等の管理や利用のために必要不可欠なトイレ、駐車場についてもそれらの施設と一体的に設置することができます。
1−1,農業用施設
農業用施設には次のようなものがあります。
農道 | 農業用用水路 | 農業用ため池 |
防風林 | 畜舎 | 温室 |
植物工場 | たい肥舎 | 種苗貯蔵施設 |
農機具収納施設 | 農産物集出荷施設、農産物貯蔵施設nn(農産物の生産、出荷、乾燥、調製、貯蔵、出荷のために使う施設) |
1−2,農畜産物処理加工施設
農畜産物処理加工施設とはその地域で生産される農畜産物を減量として処理、加工を行う次のような施設のことをいいます。
精米所 | ビン詰め・缶詰製造工場 | 漬物製造施設 |
野菜加工施設 | 製茶施設 | い草加工施設 |
食肉処理加工施設 |
1−3,農畜産物販売施設
農畜産物販売施設には、その地域で生産される農畜産物(加工されたものを含む)の販売を行う施設で、農業者自らが設置する施設のほか、農業者の団体などが設置する地域特産物販売施設も該当します。
太陽光発電設備について
農作業用施設等に付帯して、太陽光発電設備を農地に設置する場合、次の条件の全てに該当すれば認められます。
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- その施設等と一体的に設置されていること
- 発電した電気はその農業用施設等に直接供給すること
- 発電能力がその施設等の瞬間的な最大消費電力を超えないこと
- その農業用施設等の床面積を超えない規模であること
2,農業の振興に役立つ施設
農業の振興に役立つ施設とは、農地法ではこのように説明されています。
申請に係る農地を地域の農業の振興に資する施設として次に掲げるものの用に供する場合
大きくわけて次の4つに分類されます。
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- 都市との地域間交流を図るために設置される施設
- 農業従事者の就業機会の増大に寄与する施設
- 農業従事者の良好な生活環境を確保するための施設
- 周辺の地域に居住するものの日常生活または業務上必要な施設で集落に接続して設置されるもの
2−1,都市との地域間交流を図るために設置される施設
簡単に言えば都市の人々を農村に呼び込むための施設です。町おこし、村おこしに使われるような施設のイメージです。
農業体験施設や、農家レストランなどで農業や農村や農作物に興味を持ってもらうことで、地域の農業の振興に一役買うような施設です。
ほかには郷土資料館や教養文化施設、公民館などが考えられますが、その場合にも「地域の農業の振興に一役買う」という目的が明確な必要があります。
2−2,農業従事者の就業機会の増大に寄与する施設
農業従事者の就業機会を増大させることはそれだけで農村地域が活性化します。さらに、それによって離農する人の農地が集積され、周辺地域の農業振興に役立つとされています。
就業機会の増大に寄与する施設とは、その地域の農業従事者をかなりの数安定的に雇用できる施設です。
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- 工場
- 加工・流通業務施設の事業所など
土地利用の集約度の高いものが該当します。
反対に、大規模な土地の転用を伴う割に、就業者数が少ないゴルフ場などは該当しません。
2−3、農業従事者の良好な生活環境を確保するための施設
良好な生活環境を確保するための施設とは、農業従事者の生活環境を改善するだけではなく、やはりここでも地域全体の活性化を図り、地域の農業の振興に役立つものをいいます。
具体的にはn
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- 集会施設
- 農村公園
- 農村広場
- 上下水道施設
などです。特定の個人だけが利用するようなものは含まれません。
2−4、周辺の地域に居住する者の日常生活または業務上必要な施設で、集落に接続して設置されるもの
先に言葉の意味を少し説明します。
・「集落」とはかなりの数の家屋が連なって集合している区域をいいます。
・「集落に接続して」とは既存の集落と間隔を置かないで隣接している状態をいいます。(自家用野菜の栽培畑、営農上に必要な苗畑、温室、防風林を挟んでいても問題ありません)
・「日常生活または業務上必要な施設」には店舗、事務所、作業場など、その集落に住む人が生活をする上で必要な施設全判が該当します。
農村地域では既存集落の周辺部に農地が集まっていることが多く、その周辺部の農地転用が認められないことになると、そこに住んでいる人たちの経済活動を抑制することになってしまいます。このため、集落の通常の発展の範囲内で、集落を核とした「にじみ出し的」に行われる農地の転用を認めることとしています。
集落の外側がほんの少しずつ農地転用されていくイメージです。これぐらいは認めることにしているようです。
3,市街地に設置することが困難または不適当な施設
申請に係る農地を市街地に設置することが困難または不適当なものとして次に掲げる施設の用に供する場合
この規定については、施設の性格や機能の面から見て市街地に設置することが困難または不適当な施設は、市街地に用地を設定することの制約が大きいことから農地転用を許可されることになっています。
なお、ここに掲げられる施設は用地選定が全く任意に決められないわけではないので甲種農地では認められません。
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- 病院、診療所等
- 火薬庫または火薬類の製造施設
- 居住性を悪化させる施設
3-1,病院、診療所等
病院、療養所その他の医療施設でその目的を達するためには市街地以外の地域に設置する必要があるものです。
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- 老人保健施設
- 精神病院
などが考えられます。なお、老人福祉施設などの福祉施設は該当しません。
3-2,火薬庫または火薬類の製造施設
今のご時世で市街地の真ん中にこんなものがあったら大変に物騒です。
これらの施設には火薬類取締法で、一定の保安距離を設けることという規定があります。
3-3,居住性を悪化させる施設
3-2にも通じることですが、悪臭、騒音、廃煙などのために市街地の居住性を悪化させるような施設です。
市街地がダメなら農村地域に持っていっていいかというと、それは問題があるし違う気がしますが、以下のような施設が該当すると考えられます。
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- ゴミ焼却場
- 下水や糞尿等処理場などの施設
4,調査研究、特別の立地条件を必要とする施設
申請に掛かる農地を調査研究、土石の採取その他の特別の立地条件を必要とする次に掲げるものに関する事業の用に供する場合
この規定については、事業の内容または立地する施設の性格からみて、用地の選択の余地がほとんどない事業については、その農地でなければ事業目的が達成できないことから農地転用が認められます。
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- 調査研究
- 土石その他の資源の採取
- 水産動植物の養殖用施設その他これに類する施設
- 休憩所など
- 既存の施設の拡張
- その事業に欠かせない施設
4-1,調査研究
調査研究のためにその土地が必要な場合としては、次の場合が考えられます。
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- その土地の地耐力や地層を調査する必要がある場合
- 文化財の発掘調査を行う場合
4-2,土石その他の資源の採取
「土石その他の資源」には砂利、園芸用土壌、鉱物資源、その場に埋まっているはずと計算された資源などの採取の位置が制約されるものが該当します。
単なる土を取るためというのは適当では無いとされています。
4-3,水産動植物の養殖用施設その他これに類する施設
その水が何かにとても適しているため、どうしてもその位置に立地せざるを得ない施設です。
水質、水温、水量、干満等の条件が合致している場合でしょう。
4-4,休憩所など
流通業務施設、休憩所、給油所その他これらに類する施設で次に掲げる区域内に設置されるもの
流通業務施設、休憩所、給油所などはその性格から沿道の区域に立地します。だからといって、全ての沿道で農地転用を認めると農地の維持保全に与える影響が大きいため、第1種農地を対象とする場合には一般国道、または都道府県道の沿道などのある程度大きな道路に限って認められています。
流通業務施設
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- トラックターミナル
- 卸売市場
- 倉庫
- 荷さばき場
- 道路貨物運送業の事務所、店舗
休憩所
自動車の運転者が休憩のために利用する施設です。
具体的には、駐車場とトイレを備え、休憩のための座席などを施設の内部に備えているもの(宿泊施設を除く)です。
これらに類する施設
自動車修理工場、食堂など通行上必要なサービス施設です。なお、上の休憩所にあてはまる設備を備えていればコンビニエンスストアも該当します。
4-5,既存の施設の拡張
既存の施設の機能の維持、拡充のために隣接する土地に施設を整備する場合です。
もともとそこにあった工場の排水機能を向上させるための排水処理施設を隣に新設する場合などです。
4-6,その事業に欠かすことの出来ない施設
農地転用を例外的に認めることとした事業に欠かすことが出来ない施設です。
通路、橋、鉄道、起動、電線路、水路、土石の捨て場、材料置き場、常駐職員の詰所または宿舎などです。
これらの施設の設置は本体事業の転用の時期と同時期に行われるものに限られません。すでに本体事業が完了していても設置可能です。
5,公益性の高い事業に使われる場合
公共の利益となるようなものです。多くの規定があり、あまり身近なものとも言えないのでここでは割愛しますが、主に次のようなものです。
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- 公益性の高い事業で法令上きまっているもの。
- 人命に係わるもの
- 非常災害に関わるもの
- 農業上の土地利用調整が行われるもの
まとめ
いかがでしょうか。転用が許可されるものをイメージしていただけたでしょうか。
繰り返しになりますが、第1農地で農地転用が例外的に許可される施設、許される場合は
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- 農業の振興に役立つもの
- その農村地域の振興に役立つもの
- 他の場所では出来ないもの
を軸に設定されています。あなたが農地を転用して実現したい施設はありましたでしょうか。是非参考にしてください。