農地法3条、4条、5条の許可で一番多く行われているのは5条の許可です。ここではどうしても農地を転用して宅地にしたい方のために必要な知識として農地法5条を詳しく見ていきます。n
制度の趣旨
農地法の5条は転用と権利移動がともなう場合の許可制度とされています。
「転用と権利移動がともなう」とは、例えばAさんの農地を宅地にしてBさんのものにする場合です。
農地は→宅地に、持ち主はAさんから→Bさんに変わっています。ザックリ言うと5条の許可でモノと人を変えることができます。
農地法5条は、法律が作られた当初は農地の減少を防いで農業生産力を確保することを目的としていました。
しかし、その後の食料事情の安定と、住宅用地や工業用地の需要が増えたことなどから、現在では優良農地の確保と合わせて計画的、効率的な土地利用を図るという機能を持っています。
バランスを取っていきましょうという方向に変化してきたということですね。
参考として農地法3条と4条の許可もみてみましょう。
・3条の許可では持ち主がAさんからBさんに変わっています。土地は農地のままです。
・4条の許可では持ち主のAさんはそのままですが、土地が農地から宅地に変わっています。
さらに、この5条の許可は、3条の権利移動の許可と、4条の転用許可とを一本化したものであると言われています。つまり、本来ならば3条によって売買などの権利移動の許可を受けて、そのあと4条により転用の許可を受けるべきところを5条の許可の申請ひとつで両者の許可を受けられるようにしています。
許可を必要とする行為
農地法5条の許可を必要とするのは、農地を農地以外のものにするため、または採草放牧地を採草放牧地以外のものにするために、これらの土地の以下の様な権利を設定したり移転したりする行為です。
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- 地上権
- 永小作権
- 質権
- 使用貸借権
- 賃借権
- その他の使用収益権
したがって、転用を目的とする農地売買は典型的な所有権移転行為として農地法5条の許可を必要とします。
許可権者
平成28年4月に関係法律が改正され、農林水産大臣の許可をなくし、都道府県知事に農地転用の許可権限を一元化することとされました。(4ヘクタールを超える農地転用事案は農林水産大臣との協議が必要)
また、一定要件のもとに農林水産大臣が指定する市町村の長に都道府県知事と同様の権限を与える仕組みも導入されました。
許可不要のケース
次の場合は許可をとらなくてもよいとされています。
国または都道府県が転用する場合
国または都道府県が転用の目的で農地について権利を取得する場合は許可はいりません。
土地収用
土地収用法その他の法律によって収用される要な場合は農地転用をともなう場合でも許可はいりません。
農地が市街化区域にある
都市計画法上の市街化区域にある農地は農業委員会への届出をします。許可は必要ありません。nn許可≫届け出という図式です。
許可を受けるべき時期は
農地法5条の農地転用ではその許可をいつ受けるかということは定められていません。
通常は農地の売買契約が成立してから許可を受けることが慣例となっています。
許可の効力
しかし、矛盾するようですが、農地法では「許可を受けないでした行為はその効力を生じない」と規定されています。
これはどういうことかというと、一般的には売買契約が成立すれば
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- 売り主がものを渡す → 売り主が「お金を払って」と言える
- 買い主がお金を払う → 買い主が「ものを渡して」と言える
というお互いへの効果や義務が発生するものです。
しかし農地の売買においては当事者同士で契約は成立したけれども、都道府県知事の許可がおりるまでは、買い主はお金を払って「農地を渡して」という権利は発生しますが、売り主は土地を渡せないということです。
現況主義と無断転用と罰則
このように、農地を農地以外のものにする目的で売買するには農地法5条の許可を受ける必要があります。上で説明したとおり、許可を受けていなければたとえ代金全額を払っても、所有権が移転しません。
ところが農地法は現況主義というのを採用しています。
農地の売買契約が成立したあと、5条の許可を受けることなく時間が経過し、その農地が非農地化してしまった場合、許可がないのに所有権が移転することになってしまいます。農地ではないのですから。
これを逆手に取って、脱法行為がされているケースが少なくありませんでした。
そこでこうした脱法行為防止のために、違法転用された場合には原状回復を命じられたり、3年以内の懲役または300万円以下の罰金が課される規定が置かれています。
