近年、都会にお住まいの皆さんが趣味として農業に親しもう、という流れが強まっています。やはり自然の力に魅せられてということがあるのでしょうか。
テレビでもタレントさんが、自分で作った作物を収穫して、美味しそうに食べている場面をみることも多いです。
そんなことから、貸農園、レクリエーション農園など、様々な名称をつけた市民農園が都市近郊を中心として、数多く開設されています。
この記事では、ちょっと複雑な制度でもある市民農園についてみていきましょう。
市民農園の役割
農家は農地を、農地として貸したり売ったり、または転用して違う用途で使うという方法があります。
しかしこれらの方法はどれも農地法で制限されています。特に他のものにしてしまう、農地転用の許可はなかなか簡単には下りません。農地は固く守られているのです。
そんな中、都市部の皆さんに農地を使ってもらい、その対価としてお金を受け取る方法として注目されているのがこの市民農園です。
そこまで大きな収入にはならないかもしれませんが、せっかくの所有の農地を遊ばせておくより遥かに効率的だからです。
市民農園の開設方法の種類
市民農園の開設方法は、3つありますが、その3つはそれぞれ根拠となる法律が違うのです。これが市民農園をわかりにくくしている原因だと言われています。
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- 特定農地貸付法による方法
- 農園利用方式による方法
- 市民農園整備促進用による方法
まずは共通の事項を見ていきます。
10アール未満で複数の者を対象として貸付規定に基づいて行う
10アール(10a)は約1反(300坪)です。市民農園で10アールは広過ぎで使いきれません。広くても100㎡程度までが通常です。
営利を目的としない農作物の栽培のための農地の貸付であること
営利を目的としないとは、借りた市民が収穫物の扱いをどのようにするか次第ですが、最初から販売目的で借りて利用するのは営利目的とされます。
ただし、自家消費出来ないほどの量があった場合、近所におすそ分けしたり、また、直売所で販売することは制限されません。
貸付期間が5年を超えないこと
5年以内となっているいるのは、短すぎると栽培する作物が限られてしまいますし、長すぎると広く一般に利用させる趣旨にそぐわないからです。
元々そんなに長くやりたいのなら農家になりませんか、ということですね。
しかし、長期間の希望があるときは5年の期間を更新することも出来ます。
1,特定農地貸付法による方法
農地を小さく区画して、市民に貸し付けて賃料を受け取る方法です。開設するためには農業委員会の承認が必要です。
農地への権利
農地に権利設定をするためには通常は農業委員会の許可が必要です。
ここでは特例が適用され、特定農地貸付法による方法では農業委員会からの開設の承認を受けることで、別途許可を必要としない仕組みになっています。
開設できる場所
特定農地貸付法では開設場所については特に規定はありません。
しかしながら、農業委員会に承認を受けなければならないということがありますので、結局農業委員会が適切ではないと認めた場所には事実上の承認が受けられず、開設できません。
貸付協定と貸付規定
貸付協定とは市民農園の適切運営管理、市民農園の閉園後の農地の利用について市町村と結ぶ協定です。
貸付規定とは、市民農園の利用者に対して貸付の期間や賃料や、募集の方法を定めたものです。
納税猶予制度
相続税の納税猶予を受けている農地では特定農地貸付法による市民農園の開設をすると、納税猶予の適用がなくなります。
農地を貸し付ける市民農園では、相続した農地で自らが農業を営んでいる事にはならないからです。
2,農園利用方式による方法
市民に農作業体験をしてもらう市民農園として、入園料を受け取ることが出来ます。農園利用方式による方式は農地を貸し付けるのではないので農地法の規制を受けることはないですが、次のような市民農園とされます。
農作業が継続して行われていること
農作業が継続して行われているというのは、イチゴ狩りやぶどう狩りというように収穫だけをさせる観光的な形態ではなく、苗の植え付けから段階的に農作業をすすめていき、収穫まで体験するというような、一通りの農作業の形態を言います。
貸付面積や貸付期間の制限がない
制限はありませんが、特定農地貸付法による方法に準じて、10アール未満、5年以外が望ましいとされています。
開設できる場所に制限がない
市町村への手続きが不要な農園利用方式では、場所についても制限がありません。もっとも周辺に迷惑をかけないようにするなど、適切に運営することは大事でしょう。
納税猶予制度
農園利用方式による方法では、開設者が農業を行っている状況には変わりないので、相続税の納税猶予が受けられる可能性があります。
必ず受けれるとは限られないので税務署に相談して判断してもらいましょう。
3,市民農園整備促進法による方式
上記の1特定農地貸付法による方法、2農園利用方式による方法に、付帯施設を設置して利用しやすくする方法です。付帯施設の設置とは農機具を収納する施設や休憩施設などを整備することです。
農地の貸付を行えば賃料を、貸付は行わず農作業体験をするなら入園料を受け取ります。利用者が増えるとどうしても付帯施設が必要になってくることから考えると、市民農園整備促進法による方法は比較的規模が大きい市民農園で利用されます。
付帯施設が設置されていることで便利に使えるので、賃料入園料を高く設定できるでしょう。
開設できる場所
市街化区域全域と、市街化調整区域では市町村が市民農園区域として指定した区域です。市民農園区域は周辺の農用地利用に支障を及ぼさないことや、道路などのインフラ整備計画を考慮して決められています。
特例
市民農園整備促進法による方法では市町村に開設を認定してもらう手続が必要です。この開設の認定によって、農業委員会の承認を得たのと同じ効果を持ちます。
付帯施設の設置に伴う農地転用の手続が不要となり、市街化調整区域でも休憩施設やトイレ、管理事務所を設置するための開発許可を受けることが出来るようになります。
このことは大きな利点と言えます。
静岡県の農地転用|ちょっとふくざつ!市民農園制度の全体像まとめ
いかがでしょうか。
複雑な制度ですが、遊休農地や耕作放棄地を活用するために市民農園の制度があります。
農地を貸したい、または売りたい時に相手が見つからない時は考えてみてください。