法定福利費を見積りに入れてもいいですか?|建設業

建設業を営む皆さんは既にご存知の方も多いことと思いますが、平成29年度から国土交通省により社会保険未加入対策が行われています。

これについては他の記事に詳しく書いているので、ここでは簡単に説明しますと、

「社会保険に入っていない建設業者は現場入場できませんよ」という政策です。

なぜ社会保険加入にこだわるのかといいますと、理由は2つあります。

  • 社会保険に入ることで安心して働けるよう、「労働者の皆さんの処遇を改善させたい」
  • きちんと法律を守って社会保険に入った企業だけが法定福利費を出費することで競争に勝ちにくくなるという、いわゆる「正直者がバカを見る状況を改善したい」

この2つの理由により、国土交通省は建設業の皆さんに社会保険に加入してくださいと声を大にしているところです。

今回の記事では、この理由のうち②の法定福利費を当然に認めてもらうための仕組みである「法定福利費を内訳明示した見積り」について解説していきます。

目次

法定福利費とは

まず、法定福利費とはどういったものでしょうか。

法定福利費とは、会社が費用を負担することを法律で定められた社会保険料のことをいいます。

ポイントは会社が負担することが法律で定められているという部分です。会社が払うこととなると、少なからず企業としての資金繰り、経営に影響を与えます。それはどこの会社・事業者でも平等に起こることですので、「それなら最初からみんなで取り決めましょう」ということです。

また、「法定」の名前のとおり、法律で決められていることですのできちんと負担することが義務となっています。

法律を守り、「あたりまえにその分も認めていきましょう」という費用なのです。

そもそも建設業法とは建設業者を守るために作られた法律です。

これから建設業をとろうかなとお考えの方は、書類の準備から始めましょう。まずはコチラをご一読ください。

誰が法定福利費を負担するのか

冒頭にも述べたとおり、社会保険は労働者が安心して働くために必要な制度です。

労働者を抱える建設業者(会社)は、それぞれ法定福利費を負担することが義務付けられています。

そして、この法定福利費という費用は、建設業法に規定されている「通常必要と認められる原価」に含められるべきものです。

このため、元請業者および下請業者は、見積りの時からあらかじめ法定福利費を必要経費として適正に確保する必要があります。当然かかるものですから最初から金額を明示していこうということです。

そうしなければ、例えば、忘れていたかのように後から言い出されても、相手も認めにくいというものですよね。

法定福利費は尊重しましょう

下請業者が見積書に法定福利相当額を明示しているにもかかわらず、元請業者がこのことを尊重せず、一方的に削減したり、または他の費用(材料費、労務費など)で減額調整を行うなどしてはいけません

このような操作をして、実質的に法定福利費相当額を確保できない金額で請負契約をかわした結果、「通常必要と認められる原価」に満たない工事金額となるときには、不当に低い請負代金の禁止(建設業法19条の3)に違反するおそれがあります。

法定福利費相当額を含まない金額で建設工事の請負契約を締結した場合には、工事の発注者は、保険加入義務を定めた法令への違反を助長するおそれがあると同時に、建設業法第19条の3違反の当事者となるおそれれがありますので十分ご留意ください。

【国土入企第50号】適正な価格による工事発注について より抜粋

なお、元請業者→下請業者の関係だけにとどまらず、1次下請→2次下請の関係でも同様です。1次下請

は、2次下請が負担しなければならない法定福利費を見積書に内訳明示できるように、見積条件提示の際に、「法定福利費を見積内に内訳明示してください」ということを説明しなければなりません。

その際にはそれぞれの立場で理解しあい、提出された見積書の請負金額を尊重することが必要です。

法定福利費を内訳明示した見積書について

国土交通省がすすめる社会保険加入制度の取り組みのひとつとして、平成25年から、全ての専門工事業団体において法定福利費を内訳明示した見積書の提出が始まっています。

従来の見積書との違い

これまで建設業ではトン単価や平米単価による見積りが一般的でした。これはザックリとしていて概要を知るにはいいのですが、法定福利費がどのような扱いなのかが分かりにくい内容となっていました。

これに対して、見積り内に法定福利費を内訳明示することで、工事単価に含まれる諸経費とは分けて理解することができるようになり、わかりやすくなりました。

元請・下請はどのように対処するか

下請業者

見積書を作成する時にはザックリとした平米単価などで請負金額を計算するのではなく、その中に含まれる法定福利費の内訳明示したものを元請業者(2次下請の場合は1次下請)に出してください。

元請業者

下請業者に工事を発注する予定のときには、下請業者の法定福利費を含めた見積書を作成し、注文者に提出してください。

この際、下請業者の法定福利費相当額を尊重せず、一方的に減額したり、または直接法定福利費には手を付けない場合でも、労務費や材料費などのその他の経費で減額調整するなどして実質的に法定福利費の減額となるような操作はしてはいけません。

何を法定福利費として見積書に明示するのか

見積書に内訳明示する法定福利費は

  1. 健康保険料(介護保険料も含む)
  2. 厚生年金保険料(こども・子育て拠出金も含む)
  3. 雇用保険料

見積書の様式について

様式は特に決まっていません。n自社独自の様式でも、注文者から指定されている様式でも構いません。

また、各専門工事団体が標準見積書を作成していますのでそれを使用するのもいいでしょう。これらを参考にして自ら作ったものを使用しても問題ありません。

この制度の趣旨として大事なのは、必要な法定福利費を確保することです。特に決まった様式を使わなくてはいけないという指導はされていません。

書式がほしいという方はコチラが参考になると思います。
各団体が作成した標準見積一覧
国土交通省のページが開きます。

国土交通省が見積書の作成手順も公開しています。図表を多く使って説明されていて、とてもわかり易いです。
001090440.pdf (mlit.go.jp)
(国土交通省の資料が開きます)

都道府県別・職種別の公共工事設計労務単価が公表されました!こちらも非常に参考になります。
001587029.pdf (mlit.go.jp)
(国土交通省の資料が開きます)

請負金額・工事の範囲

請負代金の多少、元請業者・下請業者・孫請業者などの立場、建設業許可をもっているかどうかに関わらず、すべての請負関係で法定福利費の内訳明示した見積書を作る必要があります。

また、公共工事だけだと思われがちですが、民間工事にも適用されます。国土交通省も主な民間発注者団体に対して法定福利費がきちんと確保されるように、見積り・入札・契約の際に配慮するように求めています。

まとめ

国土交通省は社会保険に入っていなければ現場入場させないという重いペナルティをもってしてでも、どうしても社会保険加入を推進していくつもりです。

これは地道な活動かもしれないですが、元請下請の関係で「法定福利費は見積りの中で認めなければならないもの」という認知度があがれば、より公平な競争関係をつくることができ、建設業界を盛り上げていくことになるはずです。

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